小栗康平 手記
変な映画館
2009/10/01
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「シネマバー ザ・グリソム・ギャング」 http://movie007.hp.infoseek.co.jp/
以前にもブログで紹介しましたが、そうとうに変な映画館です。三十五ミリのフィルム上映で、二十一席しかない、のです。ここで「眠る男」の上映があり、私も呼ばれていて話をすることになっています。今度の日曜日、四日。なんと私はこれで、四回目。全部の作品をやる、ということになっていて、それが一年に一回。来年は「埋もれ木」。そのあとはどうするのでしょう。もうありません。
ドキュメンタリー
2009/08/17
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私についてのドキュメンタリー映画が作られることになり、昨日まで三日間にわたってその撮影が栃木、群馬で行われました。監督はフランス人のANTOINE BARRAUD(アントン・バロウ)さんで、フランス国立造形美術センター(CNAP)が出資している企画だそうです。カンヌでお世話になっている通訳の高橋晶子が同行してくださり、監督と録音技師とロケマネと四人のクルーでした。
アントンさんは、『埋もれ木』をパリの映画館で見てくれたのだそうです。たぶんそれまで私のことは知らなかったのでしよう。でも『埋もれ木』に魅せられて、なんと五回も見に行ったとおっしゃっていました。そして昨年、トリノで私のレトロスペクティブ上映があることを知り、そこで全作品を見て、どうしても私についてのドキュメンタリーを作りたくなって、とのことでした。ドキュメンタリーとはいっても実験的なそれで、いわゆるインタビューをただまとめる、といったものではなさそうです。これまでにもケネス・アンガーやツァイ・ミンリャン監督のドキュメンタリーを撮っていますが、ドキュメンタリーというよりはアート映画といったほうが近いかもしれません。どんな仕上がりになるのか、楽しみです。
アントンさんから送られてきた企画書ではタイトルは「La foret des songes」で、(foreのeの上に^がついていている)、「夢の森」「夢想の森」となるのでしょうか。「小栗の映画は、いわゆる古典的な物語の文法を使わず、ゆったりと流れる映画の地に身を投じている。作品はいくつものストーリーが折り重なり、見事なまでに絵画的で、見るものを陶酔へと引き込む、夢幻世界がある。それは観客の身体にまで影響し、物語と魂とを感じるための、もう一つの世界ともなっている」といったことが、企画書の冒頭に書かれています。企画書ですので、勝手にその全文をここに載せてしまうわけにはいきませんが、私が自分でも、なるほどなあ、と思ったこともありました。
「死の棘」のラスト近くのシーン、精神病院の中庭をトシオがミホを探しいる場面を、こんなふうに書いてくれています。「「彼はすでに一つの転換を経たのです。妻が失踪し、中庭から反射する池へとさ迷い歩く夜のシーンは、旅の始まりであり、時間の停止でもあります。この作品以降、小栗監督は物語が一直線上にある映画や、主人公を中心とした映画、また時間に整合性がある映画は撮らなくなり、芸術映画、絵画映画、詩の映画へと向かっていきます」とありました。「死の棘」の夜のプールのシーンは、自分でもここから明らかに映画の世界が変わった、少なくても「死の棘」という映画の中では、ここを「神の広場」として、などと、そんなふうにもとらえてもいましたので、少し驚きました。
「夢想と野生の交差、厳密さとアバンギャルドの交差、神秘主義と具象の喜びの交差―」をとらえるためにインタビューする、となっていました。さて、そんなことが答えられたのかどうか、怪しいものではありますが。(ここに引用した企画書は、高橋晶子さんが訳してくれたものです)。
ドキュメンタリーが完成したら、パリで私のレトロスペクティブを実現したい、そうもおっしゃっていました。どんなことになるでしょうか。それまでに次の映画は動いているでしょうか。
ゴールデン・アプリコット
2009/07/31
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アプリコットはあんず。映画祭はコンペのグランプリに、金のシュロとか熊とか、それぞれで特徴のある名前がつけられています。アルメニアはアプリコット。ちょうどこの季節、たくさんのあんずが出回っています。どの家にも木を植える土地があればそれが生っている、といったほどです。子どもの頃、私の生家にもあんずの木があって、梅雨時でしたでしょうか、木に登って取って食べたものです。大きな台風でその木が倒れて、以来、あまり口にすることもなくなってしまいました。食べ過ぎるとおなかをこわす、と注意されていたのを覚えていますが、アルメニアでもそうで、いっぺんには、五つか六つというところでしょうか。ただ、そうとうにうまい。記憶にあったあんずよりもずっと甘かった、です。

メイン開場はモスクワという映画館。隣のグルジアと違って、アルメニアはロシアとの関係をうまく保っている。この映画館もソ連時代のもの。

グランプリのゴールデン・アプリコットはグルジアの「THE OTHER BANK」(向こう岸)。監督はこれが長編第一作となるゲオルギー・オーバシビリ監督。この映画祭で見つけた、もっとも美しい映画。もっともこころ痛い映画。グルジアの北西部、アブハジアまで旅をしていく少年の話です。ソ連崩壊後、グルジアはとても悲惨な現代史を経験しています。今もなお、です。撮影は半年間だったそうですが、ポスプロのお金がなくて、その後、四年間かかって完成させた、とのこと。昨年は南オセチアにロシア軍が入って、まだじっさいには軍がとどまっている状態。逆に言えば、四年前でなくては撮れなかった作品、でもあるでしよう。なんとか日本での公開の道を探りたいものです。賞金は五百万円ほど。

授賞式の翌日、それぞれのセクションの審査委員長が出席しての、記者会見。私は長編映画の部門ですが、他にドキュメンタリー、アルメニア・パノラマ部門、FIPRESCI(国際批評家連盟賞)、ECUMENICALなどがありました。

レトロスペクティブとして私の五本の映画が上映されたのですが、その会場で、映画祭のディレクターで、映画監督のハルチュン・ハチャトリアン監督から、「マスター」という称号のついた特別賞をいただきました。「死の棘」の上映にしか私は立ち会うことはできなかったのですが、スタンディング・オベーションで、ものすごくよろこんでくれました。もう十九年近く前の作品なのですが、今頃になって、映画を落ち着いて楽しんでくれている、そんなふうにも私には思えました。また、つづきを書きます。
つづき-2
2009/07/19
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エレバンは街の建物が凝灰岩といわれるものでできています。火山の噴火でつくられた、やわらかな石らしく、88年の大地震後は、鉄筋コンクリートで建てて、いわば仕上げにこの石を使っている、とのことでした。色は薄い赤、というより赤紫でしょうか、ときどき黒いそれもあるのですが、おおむねは赤っぽい色です。朝、昼、夕方、そして暮れぎわと、光が変わっていくたびに、その薄い赤紫の色が、じつに微妙にその表情を変えていきます。パステルと水彩との中間のような、どっちにしてもやわらかな色調で、なんだかうっとりとしてしまいます。けばけばしい色は建物には見当たらず、街が同じ色合いで広かっているさまは、いいものですね。高い建物も出来てきてはいますが、どこでもこの化粧は忘れていないようで、まだまだ大丈夫、といった感じではあります。
映画祭のほうは、昨日、すべての審査も終わり閉幕しました。私が担当した長編部門では「THE OTHER BANK」というグルジアの映画がグランプリ、ゴールデン・アプリコットを受賞しました。ゲオルギー・オーバシビリという監督の、長編第一作の作品です。後日、詳しいことを書きたいと思っています。海外では、思いのほか時間がなくなってしまうものですね。なかなかパソコンを開けられません。明日は早朝に、グルジアへ移動します。グルジアはわずか三日間ですので、後は帰国してから、ですね。




昨年の十月、ここで紹介した「邑(むら)の映画会」が今年もまた、開かれます。一回だけで終わらせないぞと、関係されたみなさんが、一生懸命です。子どもボランティアというのも、ここのユニークなところ。アニメーションのよろこび、たのしみが、今年の三つの作品ではそれぞれとても特徴的です。「ピロスマニ」は取り組みとして、まだ早い、分かりにくい、などなどいろいろ意見があったようですが、いいものに、早い、遅いはない、ですね。早ければ早いなりに、遅ければ遅いなりに、見方があるでしょう。とにかく、やること、見ること。
邑の映画会 Vol.2 パンフレットPDF:1
邑の映画会 Vol.2 パンフレットPDF:2