小栗康平 手記

沖縄

2005/10/11

しばらく書き込みをしなかったので、やり方を忘れてしまいました。
こうしたネットを使ってなにごとかを発信していく意味を、つかみかねているのでしょう。でもせっかく始めたことですので、ためらいながらでもその気になったときは書いていこうと思い直しております。

今月のはじめ、4日間、沖縄へ行ってきました。きっかけは、近隣の友人たちが以前から沖縄に遊びに行きたがっていて、私ともう一人、仲のいい陶芸家ですが、60歳になったお祝いにと、いわばそれをダシにされて計画されました。私は仕事柄からか、観光という発想がありません。ロケハンだったり撮影だったりと、助監督時代から考えればあちこちを見てまわっていますし、今更あらためてどこかに行きたいとは考えないのです。でもまあ、浮世の義理というのもあります。ちょうどいいことに、那覇で15日から『埋もれ木』の上映が始まることになっていて、旅行の半分はそちらのキャンペーンで動こうと、自らを納得させたのでした。
経費の問題もあって、なかなか沖縄まで映画の宣伝では出向けません。でも行けば行ったでよろこんでくださるのは分かっておりますし、興行にもプラスになることは間違いありません。テレビを二つ、ラジオを三つ、新聞を二社、駆け回ってきました。
私が最初に沖縄に行ったのはまだ返還前のことで、19才のときでした。パスポートを持っての、貧乏旅行でした。竹芝桟橋から船で2泊3日、ひどい船酔いに悩まされたことをよく覚えています。三等船室でごろ寝して、一人ひとりの枕元に洗面器が用意されていて、吐いてはうたた寝していると、食事です!と起こされる繰り返しでした。私としてはそのときの沖縄行は、ポール・ニザンの「アデン・アラビア」といった面持ちだったのでしょう。

那覇の「桜坂劇場」はつい最近、リニューアルして町中の映画館として再出発を図ったばかりの劇場です。全国どこでもそうですが、シネコンにお客をとられて町中の映画館は苦戦しています。でも逆にそうした劇場がなにをしていかなければならないかはみなよく分かっているので、スタッフはみな意識的な人達ばかりです。「桜坂劇場」は三つのスクリーンがあり、昼夜をあわせると一日に八本ほどの映画が上映されています。映画の多様性を確保する、こうした劇場がぜったいに必要です。桜坂は国際通りのすぐ裏手で、平和通りから横の坂を上がったところにあります。地形もよく、古い町並みがまだ残っています。地域の映画館はこうした風土といっしょに生き残らなければなりません。この一日からやはり『埋もれ木』を上映してもらっている京都の「京都シネマ」もそうした劇場です。私はまだ行っていないのですが、ここも
やはり何年か前にリニューアルされ、最新の映写設備が整っているようです。こうしたところでいい映画を見ると、そのことのぜいたくさが実感されるのではないでしょうか。

3泊4日の旅で、私は沖縄そばを六回食べました。これだ、と思えるものになかなか当たらなかったからです。

つづく。

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