小栗康平 手記

ゴールデン・アプリコット

2009/07/31

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アプリコットはあんず。映画祭はコンペのグランプリに、金のシュロとか熊とか、それぞれで特徴のある名前がつけられています。アルメニアはアプリコット。ちょうどこの季節、たくさんのあんずが出回っています。どの家にも木を植える土地があればそれが生っている、といったほどです。子どもの頃、私の生家にもあんずの木があって、梅雨時でしたでしょうか、木に登って取って食べたものです。大きな台風でその木が倒れて、以来、あまり口にすることもなくなってしまいました。食べ過ぎるとおなかをこわす、と注意されていたのを覚えていますが、アルメニアでもそうで、いっぺんには、五つか六つというところでしょうか。ただ、そうとうにうまい。記憶にあったあんずよりもずっと甘かった、です。
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メイン開場はモスクワという映画館。隣のグルジアと違って、アルメニアはロシアとの関係をうまく保っている。この映画館もソ連時代のもの。
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グランプリのゴールデン・アプリコットはグルジアの「THE OTHER BANK」(向こう岸)。監督はこれが長編第一作となるゲオルギー・オーバシビリ監督。この映画祭で見つけた、もっとも美しい映画。もっともこころ痛い映画。グルジアの北西部、アブハジアまで旅をしていく少年の話です。ソ連崩壊後、グルジアはとても悲惨な現代史を経験しています。今もなお、です。撮影は半年間だったそうですが、ポスプロのお金がなくて、その後、四年間かかって完成させた、とのこと。昨年は南オセチアにロシア軍が入って、まだじっさいには軍がとどまっている状態。逆に言えば、四年前でなくては撮れなかった作品、でもあるでしよう。なんとか日本での公開の道を探りたいものです。賞金は五百万円ほど。
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授賞式の翌日、それぞれのセクションの審査委員長が出席しての、記者会見。私は長編映画の部門ですが、他にドキュメンタリー、アルメニア・パノラマ部門、FIPRESCI(国際批評家連盟賞)、ECUMENICALなどがありました。
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レトロスペクティブとして私の五本の映画が上映されたのですが、その会場で、映画祭のディレクターで、映画監督のハルチュン・ハチャトリアン監督から、「マスター」という称号のついた特別賞をいただきました。「死の棘」の上映にしか私は立ち会うことはできなかったのですが、スタンディング・オベーションで、ものすごくよろこんでくれました。もう十九年近く前の作品なのですが、今頃になって、映画を落ち着いて楽しんでくれている、そんなふうにも私には思えました。また、つづきを書きます。

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