小栗康平 手記

トリノ

2008/12/08

トリノ映画祭は今年が二十六回目。ナンニ・モレッティがディレクターを務めて二年目だそうです。モレッティは左派を代表する映画人とのこと。イタリアは現在、右派の政権ですが、映画祭は観客の入りも良く、評判もいいので、モレッティは来年も続くのではないか、などと噂されていました。そのモレッテイが、あなたのレトロスペクティブが出来たことをみんなが喜んでいると、私に伝えてくれました。
トリノはコンペ部門もあり、今年は日本映画はコンペには入っていませんでしたが、別な部門で「連合赤軍」が上映されていて、若松孝二監督と現地でお目にかかりました。もう四半世紀前のことになりますが、若松さんが監督協会の新人賞の選考で、私の「泥の河」を強く推してくれたのだそうです。以来、なんとくかわいがってもらっている、といった雰囲気があるのです。若松さんは、亡くなられた大和屋竺さんが「荒野のダッチワイフ」という映画を撮られたときのプロデューサーで、私はまだ学生でしたが、助監督見習いのような形で現場に入れていただきました。
北イタリアは初めてだったのですが、トリノはじつにきれいな町でした。見事なアーケード、というより回廊といったほうがいいかもしれませんが、それが街中のいたるところにめぐらされていて、町の大きさもほどよく、散歩するのも快適でした。ホテルから映画館までは徒歩で十五分あまり、私は毎日、歩くコースを変えて街を楽しみました。
ヨーロッパはどこでもそうかもしれませんが、トリノでも最終の上映は夜の十時からです。そんな遅い時間でも、観客たちが並んで開場するのを待ってくれているのを見ると、ありがとうございますと、声をかけたくなってしまいます。
ローマに立ち寄って、帰国しましたら、キューレーターのマッシモさんからメールが入っておりました。下記に転載します。

ローマでの日々は充実されていましたでしょうか。帰宅して落ち着かれたころと思われます。
26日をもってTURIN映画祭は終了したが、改めて、ご参加いただいたこと、そして上映にさいしてすばらしいお話をいただけたことに対して、感謝の意を表したいと思います。映画祭に監督ご自身にご参加 いただけたことは意義あることでしたし、最後の最後まで映画館は人で埋め尽くされておりました。そして、観客が上映を楽しんだことはまぎれもない事ですが、期間中に町中やモールで、何度、映画に感激した、という人に呼び止められたことか。
映画祭を成功に導いていただいたことに、深く感謝するとともに、(監督のレトロスペクティブは成功に終わると確信しておりましたが) 観客に監督の映画を見ていただけたことを、誇りに思っております。映画祭が監督にとって、そして我々にとっても、よい思い出となること を祈っております。最大限の敬意を表したいと思います。

マッシモ・カウーソ

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