小栗康平 手記

新日曜美術館

2008/11/13

来週の日曜日、十六日に放送されるNHKの「新日曜美術館」に出演しています。デンマークの画家、ヴィリアム・ハンマースホイ(1864~1916)展が東京・上野の国立西洋美術館で開かれていて、その特集企画です。日本ではこれまであまり知られていない画家で、私も初めて聞く名前でした。有名な画家ではあったらしいのですが、没後、急速に忘れ去られ、近年、その回顧展がパリ、ロンドンなどで開催されて大きな反響を呼んでいるとのことです。NHKのディレクターの方から、ハンマースホイを見て、私の映画を思い浮かべたと、誘っていただきました。絵画について論じられる立場にはありませんが、見せていただいてとても面白かったもので、番組に関わらせていただくことになりました。ハンマースホイの絵画から、私は現代映画の沈黙、静止といったことを感じ取ったように思います。室内画が多いのですが、女の人が後姿で立っているいくつかの絵は静謐そのもので、映画的な想像力をかきたててくれます。

一昨日、ソウルから戻りました。アシアナ国際短編映画祭で審査委員長を務めてきました。ジュリーは「鳥肌」「青燕」のユン・ジョンチャン監督、売れっ子の音楽監督、チョ・ヨンウクさん、MKピクチャーズのシム・ジェミョン代表、アメリカのマイケル・アルメレイダ監督でした。マイケルさんは「ハムレット」を現代のニューヨークに置き換えて映画を撮った監督です。私は見ていなかったのですが、独自なリズムを持った優しい方で、帰国してすぐにアマゾンで彼のDVDを注文しました。チョさんからは何枚ものCDをいただいてきたので、これからそれを聞くのを楽しみにしています。シムさんは大ヒット作を連発している女性プロデューサーです。審査は、激しい自己主張をする人が一人や二人、必ずいるものですが、今回はそういうこともなく、落ち着いて話し合えたように思いました。短編は長編と比べれば制作上の制約が少ないといえるでしょう。その分、本当にやりたいことをやる、そういう純度の高い作品が多いはずなのですが、デジタルで軽便に撮れるようになったからでしょうか、ハードルの低い、だらしがないといいたくなるような短編も少なからずありました。どんなものでも、心をこめて撮る、それしかありません。

同時期に行われた私の特集は、梨花女子大学の中に今年オープンしたモモという映画館で行われました。梨花女子大の中に入ったのは初めてですが、じつにきれいな大学で驚きました。運動場だったところを掘って、ガラスの建物がその両側に、半分、地下に埋まったように建てられています。ここにフィットネスクラブからブティック、映画館などの商業施設まで入っているのですから日本ではちょっと考えにくいですね。でも女子大生はあまり映画には来てくれていなかったようです。アン・ソンギさん、イ・チャンドン監督と対談をしたのですが、韓国の映画人はいつも真摯で、励まされることが多いです。

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