小栗康平 手記
春
2009/04/02
旧暦に七十二侯があります。二十四節季の一区切りをさらに三つに分けて、季節の変化をより具体的に教えてくれる、暦の知恵ですね。二十四節季までは、言われれば、ああ、そうかという程度までには知っていますが、七十二候ともなると、ええ、そうだったの、とあらためて納得することが少なくありません。三月の三十日が七十二候の「雷乃発声」、らい、すなわちこえをはっす、となっています。昨夜から栃木では強い風が吹いて、雨になりました。予報では雷をともなうとされていましたが、雷の声は発せられませんでした。明後日の五日、日曜日が、二十四節季の「清明」で、草木の花が咲いて、万物が清らかになる、とされる日です。
自然はそのように巡ってくれますが、人はなかなかうまくいきません。私の場合は、もう四月、とため息が口をついてしまいます。映画の動きがお知らせできなくて残念ですが、この四月から、たぶん二年間、月に二回、新聞のコラムを持ちます。東京新聞の朝刊、芸能欄の「言いたい放談」というものです。隔週の月曜日が私の担当ですが、一回目は新聞休刊日に当たっていて、四月二十七日からだそうです。映画を撮れない理由を八つ当たり気味に書くのならいくらでも書けますが、芸能欄とはいっても中味はなんでもいいとのことですので、そのときどきで思いついたことを、といったことになりそうです。
四月の十五日に「ポレポレ東中野」で、本橋誠一さんとのトークがあります。写真家、本橋さんの三作目の映画「バオバブの記憶」が上映中で、トークは夜の回の上映終了後です。私とのトークはさておいて、未見の方はぜひ、映画を見てください。無理やり作ったような、流行のエンタメと称する映画よりも、見ていて楽しくなります。バオバブの樹形がなんとも面白いですよ。