小栗康平 手記
「FOUJITA」 クランクアップまでもう少し
2014/12/03
10月末から手記の更新がないので、「その後の撮影が順調にいっているのかどうか、やきもきしています」というメールをいただきました。
パリから戻っての日本での撮影も上手くいっております。
今は大雪の秋田におります。
早いもので、東京に戻ってあと10日間ほど撮影すると、一部の実景を残して実質的にはクランクアップです。9月上旬のクランクインから数えて100日を超えることになります。日本映画の厳しい製作環境を考えると大いに恵まれた撮影でした。インからアップまで1ヵ月といった作品も少なくないようですし、良くて50日間がいいところ、と聞いていますから。
長く一緒にやっていると、この映画の考え方、私の撮り方といったものがスタッフに浸透していきます。これはとても心強いことです。
例えば照明部。すでにどんな画調にしていくかはしっかりと確認されていますから、どんどん先に仕事を進めていってしまいます。いつも本隊よりも2時間近く動き始めが早いのです。ロケでは1日先乗りまでしてしまいます。製作的には宿泊しなくても…となるのですが、プロデューサーいわく、「もう止められません」。いい仕事になっているのでうれしいことではあるのですが。
私は、その日のカット割りといったものを当日、現場でスタッフに伝えるのですが、その日のショット数がいつもより多かったりすると、「ああ、そうなの」といったふうに妙に不機嫌な顔をされたりしてしまいます。多くて大変だから、ではなくて、「いいんですか、それで」なのです。そうしたときは芝居が上手くいかないなどなんらかの理由が私にはあるのですが、再考を促されることにもなる。実際、結果としてそのまま撮ってしまって、私が間違えましたとなってしまったことがこれまでもなかったわけではない。
先日もワンカット、どうしても上手くいかない。撮影を終えても気になって、編集でなんとかならないものかと翌日、モニターを見直していると、撮影部の助手さんから、「あのショット、撮っているときから胸がざわざわして気持ちが悪かった」などと言われてしまう。いつもだったら入らない斜めのポジションにカメラが入っているからだった。「あんな撮り方をしたら、2時間ドラマになってしまうよねえ」などとあとで悪口まで聞こえてくる。なんというスタッフであることか。
美術パートでも、飾りで私が迷い、「ちょっと現実から離れすぎかなあ」などと言うと、「小栗組はなんでもありでしょう。ここまでいろいろ整理して虚構の領域を深めてきているのに、今更なんですか」と、私が背中を押されてしまうこともある。
こうやって新しい映画が誕生していくのかもしれません。
次に書けるのはクランクアップしてから、でしょうか。