小栗康平 手記

中国旅行

2005/11/22

11月9日から18日まで中国へ行ってきました。日中文化交流協会の代表団の一員として、です。団長は辻井喬さん、団員は私のほかに画家の宇佐見圭司さん、音楽評論家の秋山晃男さん、社会学者の大沢真幸さん、協会のメンバーお二人でした。北京、雲南、上海の行程です。
 北京で田壮壮監督、王超監督に会ってきました。田さんは「呉清源」の撮影は終わったものの、資金不足でまだ仕上げに入れていませんでした。北京電影学院で監督科の主任教授をされていて、お土産にお持ちした私の「映画を見る眼」をたいそうおもしろがり、大学で翻訳、出版するので来年の夏には集中講義に来てくれとの注文。さてどうなりますか。
 王超さんには97年にインドのケララの映画祭で会いました。私は審査員で王さんの「安陽嬰児」がコンペに入っていて、グランプリを取りました。独特な文体をもったすばらしい作品です。日本では下北沢で小さく公開されただけですが。二本目の映画が「日日夜夜」。残念ながら両作品とも中国国内では上映されていません。検閲ですね。でもフランスのDVDの海賊版で多くの人たちが見ています。田さんの「青い凧」も同じ運命です。中国には、政府に政策があれば、庶民には対策がある、といわれています。いい得て妙です。実態としては、中国の若者の方が世界のいろいろな映画を見ているようにも思えます。
 雲南は長年、行ってみたかったところです。「埋もれ木」で使ったトンパ文字は、雲南の少数民族、ナシ族のものですが、今回は南の方で、そちらには行けませんでした。いずれまた時間をかけて回ってみたいところです。
 上海から中部国際空港に戻って、名古屋の同朋大学、伊勢市の新富座、東京、多摩の映画祭と、ちょっと多忙なスケジュールとなりました。新富座の支配人、水野さんは江戸時代の芝居小屋から数えれば四代目となる方ですが、ご多分にもれず、町中の映画館は苦戦しています。でも楽しいトークでした。水野さんは大学生のときに「泥の河」を見てくれていて、いつか私と会えるのを待ち望んでいてくれたそうです。考古学を専攻されていたとのことで、温和で、知的な方でした。こういう劇場主が日本映画を支えてくれているのはうれしいかぎりです。
 来週は映画祭でスペインへ行ってきます。

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